私学通学者の教育費負担軽減をすべきだ!

 

1.私学通学者への学費補助制度

 

2010年度から、民主党政権時代の「高校無償化」政策により、国公立高校の授業料が無償になるとともに、私立学校に通う生徒にも学費の支援が行われることになった。これは、高校生が家庭の経済状況にかかわらず安心して勉学に打ち込めるようにするという趣旨の制度である。この制度は、その後の政権交代を経て、形を変えながらも現在まで引き継がれており、神奈川県では現在、以下のような制度になっている。

 

①高等学校等就学支援金(国の制度)

 

私学(私立高等学校)に通う生徒には、国の制度として「高等学校等就学支援金」が支給されている。この支援金は全国共通の制度なので、県内だけでなく県外の私学に通う場合にも適用される(例えば、都内私学に通う場合は、東京都の窓口に申請する)。支給額は世帯収入によって異なるが、最大で年間29万7,000円である【表1】。

 

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②私立学校等生徒学費補助金(県の制度)

 

国の制度に加えて、県内の私学に通う生徒に対しては、神奈川県独自の制度として「私立高等学校等生徒学費補助金」が支給されている。これは、入学金補助が10万円、授業料補助が年間最大15万8,400円であり、国の制度と合わせて、家庭の教育費負担軽減に大きく役立っている【表2】。

 

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2.現行制度の問題点と改善への提言

 

 このように、民主党政権時の高校無償化政策の進展によって、以前に比べれば格段に私学通学者の教育費負担軽減が図られるようになった。しかし、現行制度もまだまだ完全なものではない。家庭の経済状況に関わらず、自由に行きたい学校が選べるという状況を実現するためには、さらなる保護者の負担軽減策を実行する必要がある。そのために、以下のような方策を提言したい。

 

提言1:所得制限を撤廃すべき!

 

昨年度から、現政権(安倍政権)によって「①高等学校等就学支援金」に所得制限が設けられ、年収910万円以上の世帯は支給対象外となってしまった。私は、家庭の状況にかかわらず全ての子どもを社会全体で支援すべきと考えている。また、子どもが何人いるかに関わらず、一律に世帯の年収で区切ることは合理的ではない。したがって、現行制度による所得制限には反対であり、撤廃すべきだと考える。

 

所得制限の撤廃に対しては、バラマキ政策だという批判があるかもしれない。しかし、世界164か国が締結している国連の「国際人権規約(A規約:社会権規約)」では、中等・高等教育の漸進的無償化が定められている。実際に、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど、欧米の主要国では小学校から高校までの授業料は無償である。高校無償化は、バラマキでも何でもなく、世界の常識(グローバルスタンダード)なのだ。

 

【社会権規約第13条2(抜粋)】

(a) 初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。

(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。

(c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。

 

日本は1979年にこの社会権規約を批准しているが、残念なことに、中等・高等教育の無償化条項については、当初から留保(拒否)してきたという歴史があった。そして、民主党政権が高校無償化を実現した後の2012年、ようやく留保を撤回したのである。その時、無償化条項を留保していたのは、日本とマダガスカルだけであった。高校無償化によって、日本はグローバルスタンダードにようやく追いついたのである。

 

現政権が高校無償化に所得制限を導入したことは、この到達点から後退する、時代に逆行した政策に他ならない。少子高齢化の中、所得に関わらず社会全体で子育てを応援していく、特に経済的負担を軽減していくことが必要である。今後、県議会として国に意見書を提出する、県議団として国に対して働きかけを行うなど、あらゆる方法で所得制限の撤廃を求めていく考えである。

 

提言2:都内私学通学者への補助を実施すべき!(県独自制度)

 

(1)都内私学通学者の不利益解消

 

神奈川県独自の制度である「②私立高等学校等生徒学費補助金」は、県内私学への通学者のみが対象であり、都内私学への通学者は対象となっていない。同じ私学通学者でも、行きたい学校がたまたま都内にある場合は対象とならず、不利な扱いを受けているのだ。

 

県が対象を県内私学通学者のみに限っているのは、県内私学の振興という意味もあるといわれている。しかし、そもそも学費補助金は家庭に対する教育支援であり、そこに県内私学への支援という側面が入ってくるのはおかしい。県内私学への支援は、私学助成で別途行うのが筋である。

 

神奈川県も東京都も、私立高校の家計負担はほぼ変わらず、全国でも最高レベルの金額になっている【図1】。そのため、家庭の経済状況によっては、都内私学通学者への補助がないことによって、学校選択の自由が制限されるという状況もあり得る。これは、地理的にも都内通学者が多い川崎市では、特に大きな問題である。

 

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(2)財源についての提案

 

現在、この補助金の支給を受けている県内私学通学者は約24,000人となっており、支給額は約36億円である(平成27年度)。したがって、1人当たりの支給額は約15万円となる。川崎市内の都内私学通学者は2,200人なので、補助金の対象とした場合、新たに3億円の予算が必要となる計算である。これに川崎市以外の分を含めても、合計で7~10億円である。

 

 一方で、神奈川県は、私立高校への運営費補助(私学助成)として、平成27年度で166億円を補助している(平成27年度、県単独分)。そのわずか数%(川崎市内だけなら2%)を使えば、都内私学通学者に対して、県内私学通学者と同様の支援ができるのだ。私学助成の充実は、会派としても主張してきており、その意義を認めるものであるが、家庭の教育費負担を直接軽減する方向に転換していくのも一つの考え方である。

 

 行きたい学校の所在地(県内か都内か)によって家庭の経済負担が変わるというのは、子どもの選択を尊重するという観点から問題が多い。子ども本位、生徒本位で考えれば、誰でも行きたい学校に行けるよう支援するのが県の責務である。そのためには、都内通学者への学費補助を拡充し、県内通学者との格差をなくさなくてはならない。

 

 私は、県議団の政策決定の責任者である政調会長時代に、この問題を県議会の代表質問で取り上げている。

 

【平成26年12月16日県議会本会議】

質問者 (たきた)↓

私学助成につきましては大きく二つ、経常費補助と学費補助があり、いずれも私学振興のための重要な補助制度でありますが、中でも保護者の経済的負担の軽減に寄与する学費補助制度が特に重要であり、さらなる制度の充実が望まれるところであります。

現状、本県の学費補助制度においては、その受給要件として生徒、保護者が県内に在住し、かつ県内に在学することが必要であるとしておりますのは承知しております。私の住む中原区におきましては、川を1本越えれば東京都ということもあり、その地域特性として、通勤・通学を含めた日常の生活スタイルが都内と一体化している方々が非常に多いという実態があります。

通学という面に着目をいたしますと、教育統計として毎年実施される県教育委員会の公立中学校卒業者の進路状況調査、及び文部科学省の学校基本調査によれば、平成25年度の川崎市内の公立中学校卒業者数9,663名のうち、進学先を県内の私立高校とした方が925名であるのに対し、県外の私立高校とした方は2倍以上の2,225名という調査結果が出ております。このため私のところにも保護者の皆様から、電車でわずか10分の東京の私学に通学する場合、対象にならないのはおかしいのではないか、県外通学者もぜひ学費補助制度の対象とすべきだとの声が寄せられているところであります。

仮に県外通学者を学費補助対象として試算した場合、現行の当初予算額31億円に対して7億円から10億円の新たな財源措置が必要になると承知をしているところであり、本県の厳しい財政状況を踏まえれば、新たに県外通学者を直ちに対象として完全実施することは困難であると十分に理解するところでありますが、さきに述べたような実態があることを踏まえますと、県外私学の通学者を補助の対象としていくことは、今後、考えていく必要があるのではないかと思っております。

財源上すぐには難しいのであれば、まずは県外通学者の補助額を県内通学者とは別の額からスタートし、その後、影響やニーズなどを検証しながら段階的に県内通学者の額に近づけていくなどの工夫もできるのではないかと考えます。

そこで、知事に伺います。

現行の県内私学通学者への学費補助制度の充実はもとより、県内私学に通う子供たちにも支援の対象を広げるべきと考えますが、ご所見を伺います。

 

この質問に対して、知事は「将来の研究課題」と答弁した。それまで完全にゼロ回答だったものを、将来の研究課題として認めさせた、大きな意義のある答弁だった。今後も引き続き、都内私学通学者への補助拡充を求めて、県議会・県議団などの場で働きかけを強めていきたい。