※2017年11月発表
1.日米合同委員会の実態
日米合同委員会(以下「合同委員会」という。)は、日米地位協定に基づく協議機関であり、13名(日本側6名、米国側7名)の委員で構成されている。日本側の委員はすべて中央省庁の官僚、米国側の委員は在日米軍幹部(1名は外交官)である。会議は非公開で行われ、一般の国民はその詳しい内容を知ることができない。
合同委員会は、日米同盟全般について協議をする場であるが、その中でも特に、在日米軍基地の場所を決定する権限を持っている。日米地位協定の解釈では、アメリカは日本国内のどこでも米軍基地にすることを要求でき、日本側は合理的な理由がなければそれを拒否できないとされている。その米軍基地の場所が、官僚と軍人による密室の会議で決められているのだ。
これが何を意味するか。信じ難いことかもしれないが、例えば、合同委員会が中原区に米軍基地を造ると決めれば、それが両国間の正式な合意となり、地元自治体も住民もそれを拒否できないのだ。現実にそうなる可能性は低いとしても、等々力競技場を米軍のレクリエーション施設にする、武蔵小杉のマンションを米軍専用住宅にする、あるいは、あなたの家を更地にして米軍施設を造る、と合同委員会で決めれば、神奈川県も、川崎市も、そして住民も、制度上はそれを拒否できない。そんな恐るべき権限を持った機関なのである。
合同委員会では、在日米軍基地の位置のほか、米軍機の飛行や航空管制、米軍による事故の調査や被害者への補償、米軍人による犯罪の捜査や裁判権、米軍基地での日本人従業員の雇用など、在日米軍に関すること全般が協議される。このように巨大な権限を持った会議が、政治家も関与せず、国民にも公開されない密室で行われていることは、見逃せない問題である。
2.日米合同委員会の問題点
(1)強すぎる権限
皆さんは「横田空域」(横田ラプコン)をご存じだろうか。横田空域は、1都9県(東京、神奈川、埼玉、群馬のほぼ全域と、栃木、新潟、長野、山梨、静岡、福島の一部)の上空にまたがる広大な空域であり、航空管制を米軍が担当している。ここを日本の飛行機が通るには、個別に米軍の許可が必要となっている。皆さんも経験があると思うが、西日本から羽田空港に着陸する飛行機は、最短コースではなく千葉県上空を大回りして羽田に着陸することが多い。これは、横田空域を避けて飛ぶことも一つの理由である。
首都圏の空を米軍が管制し、日本の飛行機が自由に入れないという、それだけでも独立国として情けない状態になっているのだが、さらなる問題は、その根拠が国会で決められた法律ではなく、「合同委員会の合意」であるという点である。日本の防衛に役立つのであれば、一定の空域を軍用機優先とすることもあり得なくはない。しかし、その決定は、主権国家である日本が、その法律で決めるべき事柄である。
この他にも、合同委員会では、米軍関係者の犯罪について日本側に裁判権がある場合に、「日本にとって著しく重要な事件以外は裁判権を行使しない」ことが表明されている。これは、秘密指定が解除された米国側の文書と日本側の文書(民主党政権が公開)の双方で明らかとなっている。在日米軍関係者について、外交官のように裁判権免除の対象とすることがあり得るとしても、数万人の軍人やその家族を対象とするのはあまりに広すぎる。少なくとも、国会の議決も経ずに、官僚と軍人だけで恣意的に決めることではないはずである。
外務省の内部文書とされる「日米地位協定の考え方・増補版」には、合同委員会の決定は、日米地位協定の「いわば実施細則」として、日米両政府を拘束する、と書かれている。合同委員会は、立法権や行政権を持つ機関ではないため、本来は日本の法令に抵触する合意を行うことはできない。しかし実際には、横田空域や裁判権不行使のように、法令に基づくことなく米軍に有利な合意が行われているのである。これでは、法治国家のあり方として問題があると言わざるを得ない。
(2)密室で行われ、国民に公開されない
合同委員会の議事録や合意文書は原則として非公開であり、合意の概要だけが外務省ホームページで公開される。どの部分を公開するかは政府が決められるため、都合の悪い部分は公開しなくてもよい仕組みになっているのだ。合同委員会の議事を非公開とすることは、第1回の合同委員会(1960年6月)で決められており、日米の合意がない限り公開しないこととなっている。
そのため政府は、たとえ国会の場で合意文書を公開するよう求められた場合でも、公表すると日米間の信頼関係が損なわれるおそれがあるとして、頑なに公開を拒んできた。情報公開請求を行っても同様に不開示となってしまう。
このように、合同委員会は我が国の主権に関わる重要な決定がなされる場であるにも関わらず、主権者である国民に対する説明責任が全く果たされていない状態である。特に、米軍基地の設置や横田空域のように、国民の権利や自由が制限されるような合意まで秘密のうちに行われてしまうことは、国民主権の原則に照らしてあってはならない事態である。
(3)官僚と軍人で構成され、政治家が関与しない
合同委員会の日本側代表は外務省北米局長であり、他のメンバーも、外務省、財務省、防衛省などの官僚である。米国側代表は在日米軍の副司令官であり、委員は在日米軍幹部と米国大使館の外交官1名である。合同委員会の下には多数の分科委員会や部会が置かれており、全部で数百名規模となる。これらの下部組織の構成員も、官僚と米軍関係者である。
通常の政府間交渉は、政治家や官僚・外交官という文官同士で協議が行われる。合同委員会のように、官僚と軍人が直接協議して物事を決定するという仕組みは極めて異例である。これでは、米国の軍事的要求が前面に出た交渉になってしまう。
また、合同委員会は日米同盟の根幹に関わる重要な協議が行われる場でありながら、国民の代表である政治家が参加していないことも大きな問題である。国家の主権に関わる重要な決定は、民意によるチェックを経て行うというのが、民主主義国家としては当然である。しかし、合同委員会は、政治家が参加せず、国会の議決を経ることもない。国民の意思が反映されない場で重要な決定を行う仕組みとなっているのだ。
もっとも私は、官僚が独断で物事を進めているという見方は表面的すぎると考える。合同委員会の参加者は官僚であっても、その上司である大臣・副大臣等は政治家である。実際には、在日米軍基地の新設・返還や日米地位協定の運用など、日米同盟に関する重要事項を、関係大臣や官邸(総理大臣、官房長官など)の了解なしに決定することはあり得ない。したがって、合同委員会は、政治家が関与できないのではなく、政治家が直接関与せずに官僚にやらせているといった方が正確である。そうすることで、政治家が直接の責任を負わない仕組みにしているという方が、より妥当な見方だろう。
国民に不人気な決定は、できるだけ国民の目が届かないところで、政治家が関与せず官僚にやらせるというのは、政治家の典型的な考え方である。こうした無責任体質は、何も合同委員会に限った話ではなく、日本政治や日本社会の悪しき特徴であるといってよい。誰が判断したかわからない、誰も責任を負わない、という無責任な政治から、一刻も早く脱却しなければならない。
3.たきた孝徳の提言
ここまで述べたような合同委員会の問題点を改善するため、以下の4点を提言したい。
(1)合同委員会の協議内容を公開すべき
まずは何よりも、合同委員会の協議内容を公開することである。国民の目の届かないところで、国民生活を大きく左右する重要な決定がされてよいはずはない。もちろん、軍事的な理由から秘密にしておくべき事項も中にはあるだろう。しかし、米軍に認められる特権の内容や米軍人による犯罪の扱いなどは、国民の重大な関心事項であり、およそ軍事的な秘密とはいえないものまで非公開にすることは許されない。
上で述べたように、合同委員会は、「日本法令に抵触する合意を行うことはできない」とされつつ、横田空域のように、実態としては法律上の根拠がない合意が行われている。合意文書が公開されなければ、日本法令に抵触するかどうか、また、その内容が適切であるかどうか、国会や国民が判断することができないのである。
したがって、合同委員会は原則非公開としている現在の運用を改めて、原則公開とし、必要な場合に限り非公開とすべきである。また、非公開とする場合には、内閣の承認を必要とするなど、少なくとも国会議員が関わって決定するようにすべきである。これによって、非公開の決定も、最低限の民主的な手続を経たものとなる。また、どのような議題を非公開にしたのか、その議題名は明らかにする必要がある。
(2)日米合同委員会に国会議員を参加させるべき
我が国の主権に関わる重要な決定を行う合同委員会のメンバーが、官僚と軍人(と1人の外交官)のみであり、国民の代表である国会議員が入っていない現状は、どう考えてもおかしい。
日米地位協定第25条には「協定の実施に関して相互間の協議を必要とするすべての事項に関する日本国政府と合衆国政府との間の協議機関として、合同委員会を設置する」と定められている。これが日米合同委員会の設置根拠であるが、そこには委員会のメンバーを誰にするかまでは書いていない。日米地位協定上は、メンバーが官僚と軍人だけである必要はないのだ。
そこで、少なくとも日本側のメンバーには、国会議員(例えば外務副大臣や政務官など)を入れるべきである。これによって、合同委員会に国民代表の意見を反映させることができる。さらに、米国側のメンバーも、軍人中心ではなく、文官同士の対話となるよう、大使館の外交官を中心とすべきである。
(3)重要な決定は国会承認を得るようにすべき
在日米軍に関する重要な決定は、国会承認か、少なくとも閣議決定を必要とするよう改めるべきである。現在でも、例えば米軍基地の場所については、日米合同委員会で合意した後に、閣議決定を行って官報告示されている。しかし、それはあくまでも日本国内の手続であり、米国側との関係では合同委員会で合意するだけで正式決定となるのだ。また、横田空域や裁判権不行使のように、法令を超えた重大な決定が合同委員会で行われている実態もある。
このように、国家主権に関わる重大な決定が、官僚と軍人だけで行われ、その合意自体も公開されないというのは、国民主権の原理からいって明らかにおかしい。国会の承認を経るようにすれば、法令を超えるような合意を合同委員会で勝手にすることもなくなる。日米合同委員会はあくまでも協議機関とし、重要な決定は国会承認という民主的なチェックを経て行う仕組みに改めるべきである。
(4)地元自治体の意見を反映させるべき
合同委員会の決定には、米軍基地を抱える地元の意見は全く反映されない。神奈川県内にも12か所の米軍施設があり、県および関係する12市町が「神奈川県基地関係県市連絡協議会(県市協)」を組織して要望活動等を行っている。また、米軍基地を抱える15都道県で構成される「渉外関係主要都道県知事連絡協議会(渉外知事会)」も、基地問題に関する要望を毎年度提出している。
こうした地元の意見が日米合同委員会に反映されるよう、合同委員会の下に、地元自治体の代表が参加する特別委員会を設置すべきである。