無電柱化を進め、美しく安全な街並みを作ろう!

買い物客で賑う歩行者天国の銀座。「小江戸」として観光客を集める埼玉県川越。東京ディズニーランド。地元であれば新たに開発された武蔵小杉の駅前。

行き交う人が多く、賑やか。活気があり、様々なお店が並び、街並みがスッキリと美しく感じるはずである。

これら街並みの共通点はなんだろうか?そう、電線・電柱がないのだ。

 

 埼玉県川越市

 

武蔵小杉駅周辺

 

1.「無電柱化」とは

 

国会において、「無電柱化の推進に関する法律」が成立した。

この法律の趣旨は、電柱を地下に埋めるなど「無電柱化」を進め、災害防止・交通安全・景観維持を図ることにある。この法律の成立によって、国や地方公共団体には、無電柱化を推進する計画を定める責務が生じる。また、電力・通信などの関係事業者は、再開発事業の際、原則、電柱・電線を道路上に新設しないこととなる。政府は、1980年代以降、5カ年計画を何度も策定し、無電柱化の取組を進めてきた。そして、今回初めて、無電柱化の推進を正面から打ち出し、国の基本方針と明示した法律が作られるに至ったのだ。

とはいえ、街中に現在も存在する電柱を埋めると言っても、荒唐無稽に聞こえる、と思われる方もいるだろう。

しかし、この「無電柱化」の発想の歴史は古く、明治時代から続く、息の長い政策なのである。

例えば、冒頭に挙げた銀座通りの無電柱化は1969 年、半世紀近く前に行われている。

無電柱化に関しては今回の法成立前からの少しづづではあるが進められている政策テーマである

例えば、都知事時代の石原慎太郎氏が、東京を無電柱化し、代わりに100万本の街路樹を植えると打ち出したこともある。

また、近年では石川県金沢市などが有名だし、「無電柱化を推進する市区町村長の会」には、なんと287の首長が参加し、神奈川県からも、横浜・川崎・鎌倉・小田原などが名を連ねている。

また、現在、東京都は、「無電柱化推進条例」を制定した。国が法律で示した枠組みを、都自らが率先して引っ張っていく姿勢を打ち出している。まさに本格的な無電柱化の流れが始まりつつあると言えるのだ。

しかし、我が国ではこれから本格的に始まろうとする無電柱化であるが、先進国の大都市では当たり前のことだ。

ここで、最新の「無電柱化率」という指標を見てみようと思う。

例えば、ロンドンやパリは無電柱化率100%、ベルリンでは99%、ニューヨークでは83%。電柱完全ゼロとまでは言えないが、欧米の主要都市では、電柱がない景色の方がスタンダードであるということだ。

ちなみに、雑然としたイメージが強い香港も、意外に無電柱化率100%、ソウルでも46%、ジャカルタでは35%である。

では、一方日本はどのぐらいなのだろう?

50%はいってほしいところだが、なんと、東京23区でわずか7%、70%ではない、たった7%だ。

しかし、これでも国内ではトップレベルの数値であり、横浜市では3%、私たちの住む川崎市では2%、相模原市で1%という状況である。

 

2.なぜ、私は無電柱化を主張するのか?

 

主な理由は交通安全、防災、景観の3点である。以下、その理由について詳しく記したいと思う。

 

(1)住民の安全性

私が無電柱化政策に関心を持ったきっかけは、地域の皆さまからのご相談だった。場所は上小田中、大谷戸小近くの通学路。子供たちは毎朝、路側帯を歩いて登校している。

ちゃんとした歩道ではなく、車道脇の白線の横、道すがら何本もの電柱があり、子供達はその度に白線を越え、車線にはみ出して歩かざるを得ない状況があった。

車に注意を払えない低学年の子も多く、これではいつ事故が起こるかわからないから何とかして欲しいという切実なご指摘だった。

 

皆様の中でも、車幅いっぱいの狭い道路、電柱ごとに止まって車をやり過ごす歩行者の姿を、ご自身がこの歩行者として、あるいはドライバーとして目にした、経験があるのではないだろうか。

上小田中の案件では、最終的には、地域の皆様とともに川崎市とも調整し、電力会社の協力を頂き危険な電柱を撤去することとなったが、そもそも論で言えば当初より無電柱化されていれば、多くの住民の皆様の交通の安全が確保できるのだ。

こればあくまでも経験からくる一例だが、無電柱化の街づくりが実現すれば、最初から住民の交通の安全性を一段引き上げることができるのだ。

 

 

(2)防災

二番目の理由は防災の観点からの危険性除去だ。

普段、コンクリートの太い柱を見慣れているので中々想像するのも難しいが、地震や台風など一定規模の災害がくれば、電柱は、いとも簡単に倒れる。

実際、東日本大震災の際には、5万6千本もの電柱が倒壊したという。

これは、道を歩いている人からすれば、コンクリートの塊と高圧電線が上から降ってくることになり、危険この上ない事はいうまでもない。

さらに、被害を拡大するのが、倒れた電柱による道路の寸断だ。

大震災が起これば、多くの建物が倒壊し、多くの負傷者が瓦礫の下敷きになり、身動きが取れなくなる。さらに、火災が追い打ちをかける。建物を飲み込み、動けない負傷者をさらに追い詰める。

こんなときに道路に電柱が倒れれば、救急車も消防車も先へ進めない。最悪、都市が完全に孤立することもある。

電柱が倒れることで、助かるはずの命が助からない。そんな悲劇が当たり前のように起こり得るのだ。

 

(3)景観・観光

三番目の理由は、街の景観だ。

無電柱化は、これからますます重要になる街並みの美化・保護に大きく貢献すると確信している。

観光立国の看板が掲げられ、オリンピック・パラリンピックの開催が迫る中、外国からの観光客誘致にも力をいれなければならないだろう。

先ほど世界各国の「無電柱化」の指標について触れたが、それら国々から訪れる観光客の母国では、日本のように電線の網の目が張り巡らされていないということもある。

実際に訪日観光客が、観光地でもないのに写真を撮りたがることがあると聞いたことがある。

情けない事にその理由の一つが、「電柱・電線」の風景だという。私たちが慣れすぎ、普段は意識すらしないあたりまえの電柱があり電線を張り巡らせた光景が、彼ら・彼女らの目には大きな違和感を持って写っているのだ。

今後、オリンピック・パラリンピックを機に、鎌倉や江ノ島のような観光スポットはもちろん、川崎を含めた神奈川全域に多くの外国人が訪れてくれるだろう。私は、こうした外国の友人たちに、神奈川の海を、山を、街を、より美しく見せ、よりよい印象を持ち帰ってもらいたいと思う。

無電柱化は、観光政策のひとつでもあるのだ。

各都市の無電柱化率の推移

 

3.無電柱化を阻む課題

 

以上無電柱化を進めるべきという理由を三点挙げた。

しかし、現実の日本では無電柱化が遅々として進まない。繰り返しになるが、川崎市の無電柱化率はたったの2%である。

無電柱化が進まない理由はいくつか挙げられるが、まずは課題から見てみたいと思う。

 

(1)管理・復旧の難しさ

無電柱化についての反対論の一つとして、「地震の多い日本には地中化は向かない。行うべきでない」というものがある。

通常の電柱を使ってある方が、外から目視で検査でき、どこが壊れているかすぐ特定できる。また、復旧工事のスピードも、掘り返して埋める必要がない通常の電柱の方が早い。地震による大規模な損害がしばしば起こる日本では、無電柱化は合理的でない、というのである。

理屈として、わからなくはない。しかし、そこに住む住民視点に立てば、「倒れても・途切れてもすぐ直せる」よりも、むしろ、災害時の人命と安全確保の観点から「そもそも倒れない・途切れない」ことを目指すべきだ。

倒れた電柱さえなければ、救助の手が届き、助かる命がある。助かるはずの命が失われることは、なんとしても避けなければならないと私は考えるしその視点で街づくりを行うのが政治の役割だろう。

また、「電線が途切れない」ことという視点で言えば、阪神・淡路大震災の際、震度7地域の停電率は、「地上の電柱:10.3%」に対し、「地中線:4.7%」である。

無電柱の方が耐久性があり、途切れない可能性が高いのだ。

また、阪神・淡路大震災の被災者の方は、73%が「復興のタイミングで電柱を地中化すべきだった」と考えているとの調査結果もある(1)事をここに紹介したい。実際に現地で苦労された方々の声には、耳を傾けるべき重みがあるのではないか。

 

(2) 初期コストの大きさ

地中化の意義は認める、となった後、最大の問題はコストである。実際に無電柱化が中々進まない理由はここにある。

現状では、電力や通信のケーブルをまとめて共同のパイプ(管路)に通す方式が主流だが、この方式で、1km当たり約5.3億円が必要になるという。我が国の道路延長はざっと40万km。単純に計算すれば、日本から電柱・電線を一掃するためには、200兆円という天文学的な規模の費用がかかる、ということになる。

ここだけ聞けば、夢物語ではないか、と思う方もいるだろうが、必要となるコストは、「どのように行うか」によって大きく変わる。

例えば、1986年当時、総工事費は、約10億円/kmだった。これが、1995年には約5.3億円/kmへ、ほぼ半額にダウンしている。

現在でも、国交省が検証中の新たな工法(2)では、ここからさらに約30%の土木工事費がカットできるという。また、少々裏技的なやり方としては、「地中化」ではない「無電柱化」を行うという手もある。例えば、電線を電柱にぶら下げるのではなく、建物の軒下や壁に収納するやり方が実際に行われている。当然、コストは、地中化に比べ段違いに下がる。事業者に技術開発を迫り、規制当局が柔軟に対応していくことで、トータルのコストは引き下げていくことが可能なのだ。

さらに、このコストがすべて税金で負担されるものではない、ということにも注意したい。そもそもの原則論で言えば、電柱は公益の側面が大きいとはいえ電力会社等が自らの事業のために設置しているものといえる。

であるならば、架空であろうが地下であろうが、本来事業者が全額負担して設置するのが原則だろう。

実際に、初期の電線地中化は、事業者側が全額負担する形で行われていたし、現在でも、ガス会社が地中に配管を通す場合は、その費用は全額事業者負担である。なぜ、ガス会社だけが事業者負担でその他は同じ扱いにならないのか?という論理も充分に成り立つはずだ。

ちなみに、近年は、総工費のうち、およそ2/3を道路管理者(国・都道府県・市町村)、残り1/3を事業者が負担することが定着している。

しかし、本来は事業者が自らの責任を自覚し、原則に立ち戻って対応していくべき話だろう。もちろん、厳密かつ強硬にその理論を主張するつもりもないが基本となる考え方はそうなる。その上で現実的に物事を組み立てるべきだろう。

また、税金で手厚く補助されれば、わざわざ技術を開発してコストを引き下げるようなインセンティブは湧かないという問題もある。

企業は、コストが自らに降りかかるとなってはじめて、必死でコスト削減を考えるのだ。

 

(3)行政の縦割り

実は無電柱化を担当する役所というものが、現状では不明確だ。

無電柱化については責任を持って政策を遂行する役所がない。

例えば、道路行政を仕切るのは国土交通省だが、電柱・電線の所有者は電力会社や通信会社であり、これらの業界を監督するのは経済産業省や総務省だ。景観保護は環境省、道路使用許可は警察庁と、国の役所からして既に多数が関わっている。

さらに、道路行政の中でも、問題になる個別の道路が、国道か、都道府県道か、市町村道なのかによって、道路を管理する役所が、変わってしまうのだ。

電線共同溝の場合、共同のパイプの購入・設置や工事費は道路管理者の負担になるため、それぞれの役所の意識と財政余力がそのまま進捗に影響することになる。

また、個別の役所に馬力があっても、縦割りのままではコストに無駄が生じる。一定のエリア内で複数の道路をまとめて整備すれば、設備を共通化してコストを削減することができる。この複数の道路が、例えば、国道・県道・市道に跨っていた場合、調整が非常に困難になってしまうのだ。

道路を管理する役所が複数あることは、この際仕方ない。しかし、無電柱化の旗を振り、それぞれの役所の間で調整を図る組織が、国レベルでも自治体レベルでも必要であると考える。

(1)無電柱化民間プロジェクト「阪神淡路大震災被災者200名調査(2014)」

(2)「小型ボックス活用埋設」方式の例

 

4.先進的な取組

 

では、こうした課題を乗り越え、無電柱化を達成した事例も見てみよう。

無電柱化を語る際、まず挙がる事例が、冒頭でも見た埼玉県川越市だ。川越市の例で特筆すべきは、住民のイニシアティブである。蔵造りの町並みが続く一番街商店街も、かつては両側に電柱と電線が張り巡らされていた。こうした中、1985年、地元の商業協同組合が電線の地中化を提言。その後も、組合が議論をリードして、東京電力・市へ粘り強い働きかけを続け、事業の開始にこぎつけた。さらに、地上機器の設置用地がない(歩道がなかった)ことが問題となった際には、沿道の土地所有者が自主的に土地を貸し出し、解決を図った。こうした住民のイニシアティブが実を結び、今では町並みは江戸の面影を取り戻し、年間400万人の観光客を呼び込んでいる。

また、石川県金沢市も、無電柱化の先進都市として有名である。金沢市は、2009年に全国第1号の歴史都市に認定されたことをきっかけに、「金沢方式無電柱化推進実施計画」を策定。この「金沢方式」が、事業者から高く評価されている。計画では、特定の工法・手法への決め打ちをせず、様々な手法を組み合わせることを打ち出した。例えば、「完全地中化」のほか、既に埋設されたライフラインの空きを使った「既存ストック活用」、先ほど裏技的と呼んだ「軒下配線」など、無電柱化したいそれぞれのスポットに応じた手法を選定することとしている。事業者の自由度が増すことで、コストは大きく下がり、結果として無電柱化も進む。自治体・事業者の協力のよい例だろう。

 

5.神奈川の取組

 

無論、神奈川県内でも、無電柱化に向けた取組が進められてはいる。

例えば川崎市では、2011年に「川崎市無電柱化整備基本方針」を策定。重点化エリアを定め、軒下配線などの新手法も織り交ぜて、推進を図っている。しかし、しつこいようだが、川崎市の無電柱化率は2%。まだまだ例外的な風景であると言わざるを得ない。

また、県のレベルでも、県道を中心に無電柱化は行われている。県の推進計画では、計画中の37km のうち、23kmで既に整備が完成している。特に、災害時における緊急輸送道路、駅周辺で歩行者が多い道路、鎌倉の若宮大路など魅力ある町並みを形成する道路を狙い、重点的に整備が行われている(1)。しかし、残念なのは、県の推進計画の内容が大変見えづらいことだ。県は、電線事業者・警察などとの協議会において無電柱化計画を策定している(2)が、では次はどの道路か、と思っても、計画が公表されていないため、県民はすぐにはわからない。また、この計画の策定に対して、県民の代表である県議会も関与できていない。

 

(1)平成28年第3回定例会9月14日、知事答弁

(2)平成27年決算特別委員会10月30日、道路管理課長答弁

パリの街並み

 

6.県会議員たきた孝徳の提言

 

以上を踏まえ、神奈川県内外で無電柱化をさらに推進するため、以下の5つを提言したい。

 

(1)無電柱化条例の制定

先に述べたとおり、東京都は、「無電柱化推進条例案」を制定した。内容としては「無電柱化推進法」の構成をなぞったもの(1)だが、無電柱化に向けた意気込みを内外に示す効果は抜群である。神奈川県でも同様の条例を制定し、無電柱化に向けた意思を示すべきであると考える。

 

(2)新たな道路では、無電柱・事業者負担を原則とすべき

当然、既にある電柱・電線をすべて撤去することが理想ではある。理想ではあるが、現実論としては無理だ。

しかし、少なくとも、この先整備される道路・市街地では、電柱・電線の新設を禁止し、ガス会社なら当然に行っているように、事業者の負担で電柱のない町並みを実現していく事を検討すべきであると、私は考えている。

「無電柱化推進法」では、新たな道路や市街地の開発の際、電柱・電線を道路上に設置してはならないとしている。東京都の条例でも同様である。神奈川県も、先に述べた条例でこのことを確認し、事業者に明示していくべきだと考える。もし、柔軟な対応をするとしても原則は原則として確認すべきだろう。

 

(3)県推進計画の位置付けを見直し、新たに策定すべき

「無電柱化推進法」は、都道府県に対し、それぞれで無電柱化推進計画を定め、かつ、公表するよう促している。

神奈川県にも推進計画はあるが、県が事業者との間で策定したものであり、まとまった形での一般公表はなされておらず、議会として承認したものでもない。こうした形の計画では、どうしても、事業者の視点と都合が優先されているのではないか、と懸念せざるを得ない。

そこで、県に推進計画の策定・公表を義務付けることに加え、東京のさらに一歩先を行き、計画策定に議会の承認を求めることを提言したい。これにより、県が明確に責任を持った推進計画となることに加え、県民の声を反映した、県民を巻き込んだ計画とすることが期待できる。

 

(4)市町村との協議の場を設け、働きかけるべき

東京都の条例では、推進計画の策定に当たり、「区市町村と連携する」としている。

神奈川県としても、県内市町村との間で協議会を設置するなどして、計画策定から工事の実施まで、緊密なコミュニケーションを図るべきである。先に触れたとおり、行政の縦割りを超え、県道・市道などの境目を跨いで無電柱化を進めることで、大きなコストダウンが期待できる。

 

(5)国に、無電柱化を司る機関を設けるべき

無電柱化のためには、国・県・市のタテの連携と同時に、先に述べたとおり、国交省・経産省・総務省のような省庁間でのヨコの繋がりが必要になる。

政府は、国を挙げて無電柱化を推進し、総合的な調整を行う省庁横断的な機関を設置すべきだと考える。推進法では、国土交通大臣が全体計画を担当することになっているが、より格上の「無電柱化推進本部」のような場を設けた方がよい。県議会から国に対し意見書を出し、こうした機関の設置を訴えていくことを提唱していきたいと思う。

 

〔参考文献〕

小池百合子 / 松原隆一郎「無電柱革命」(PHP研究所、2015年)

電線のない街づくり支援ネットワーク「電柱のないまちづくり」(学芸出版社、2010年)

 

(1)法律では努力義務にとどまる都道府県の計画を「定める」と明言するなど、いくつかの点では踏み込んでいる。